在庫管理は、企業の運営をスマートに、健全に存続していく上で大きな障壁となるケースが多いです。
「過剰在庫になりがち」「在庫を抱えないようにしていたら、欠品が多くなってしまった」「在庫管理している倉庫スペースが煩雑・逼迫している」
そんな方は、本記事を参考に、適正在庫を維持するためのポイントを理解してみませんか?
こちらでは、適正在庫とは何かという基礎から、業種によっても異なる最適な適正在庫の計算方法、適正在庫の維持を阻む要因を踏まえ、どうすれば適正在庫を維持できるのか、そのポイントをまとめて解説させていただきます。適正在庫を維持することは、無駄を省きスマートな企業経営を実現し、利益を最大化するのに必須です。
目次
適正在庫とは
適正在庫とは、欠品や過剰在庫にならない適正な在庫数を指します。
在庫管理をする上で課題となるケースもありますが、適正在庫をキープすることは「キャッシュフローの最適化」に直結しますから、適正在庫を見極め、キープする運用が重要なのです。在庫管理の最大の課題ともいえる過剰在庫があるということは、保有している資産(=在庫)を現金化できない、その結果すぐに動かせる現金に制限がかかり、思うような企業運営ができないことになります。在庫過多の状況下では保管スペースを逼迫する事態も想定され、在庫管理コストが増幅するだけでなく、倉庫内の運用がスムーズに行えず作業効率が下がってしまうことも。この状況が長引けば滞留在庫となり、値引き販売するなどして想定通りの利益をあげることもままなりません。
かといって少ない在庫をキープしてしまうと、すぐに欠品になってしまい、消費者や取引先から「必要なときに届けてくれない」ということから、購買意欲をそいでしまうだけでなく、場合によっては信頼を損なってしまうことも考えられます。利益を最大化しつつ、健全な企業経営を行うためにも、適正在庫を保つことが企業にとって重要な課題なのです。
適正在庫が在庫管理で重要視される6つの理由
上のお話しから、適正在庫をキープすることが、在庫管理で重要とされる理由を抜粋して見てみましょう。
- 利益を最大化し健全な企業経営を存続するため
- 欠品による販売機会の損失を防ぐため
- 自社に対する顧客の購買意欲を損なわないため
- 過剰在庫により業績悪化を防ぐため
- 倉庫スペースの逼迫を避けるため
- 在庫管理コストを最適化するため
企業経営を健全に存続し、最大限の利益を得るためには、在庫管理の業務のうちでも適正在庫をキープすることが重要である、ということがお分かり頂けるのではないでしょうか。
無駄なコストを省く、経営のスマート化にも適正在庫は欠かせない要素なのです。
大手製造業・卸売業が抱える在庫管理の課題から見える適正在庫キープの重要性
NECソリューションイノベータが年間売上高50~1000億円未満の製造業と卸売業に対し、2019年8,9月で行った『在庫適正化』についての独自調査を行ったアンケート結果が以下です。
アンケート結果は以下の通り(複数選択可能)でした。
順位 | アンケート項目 | 得票数 |
---|---|---|
1 | 過剰在庫が多い | 182票 |
2 | 発注数を予測しづらい | 133票 |
3 | 業務が俗人化している | 101票 |
4 | 発注数の変更が多い | 93票 |
5 | 欠品が多い | 88票 |
6 | 社員の残業時間が多い | 62票 |
7 | 納品に時間がかかる | 60票 |
上記の事から、事業規模が大き目の企業であっても適正在庫をキープすることが現状難しく、課題を抱えているということが伺えます。
中でも従業員目線の項目を拾っていくと、従業員の負担が大きくなってしまっており、また在庫管理業務そのものがきちんとしたマニュアルに添えているとは言えず、俗人化してしまうなど企業の教育面での課題もあることもわかります。
適正在庫を維持する6つのメリット
容易とはいえない適正在庫維持ですが、実現することでどのようなメリットがあるのか見てみましょう。
- 在庫の廃棄や値引きのリスク軽減
- 納品工程がスムーズになる
- 適切に発注できるようになる
- 在庫管理する倉庫の運営の最適化
- キャッシュフローの最適化
- 安定した利益の創出・利益の最大化
適正在庫がキープできることで、仕入れの無駄を省き、最大限の利益が得られるというのがまず大きなメリットでしょう。利益最大化に欠かせない、無駄なコストの削減でも、適正在庫をキープするため在庫管理が的確に行われることでスムーズな出荷作業が行えるようになり、従業員の負担軽減、在庫管理に関わる人的コストも最小限に抑えることができます。在庫適正化には、どの程度の在庫が適切か見極めるだけでなく、的確な在庫管理を行うことが欠かせません。在庫管理をマニュアル化し、適切に運用できるようにルールなども定めるなど労力は要しますが、倉庫内も健全に運営されるため、従業員にとって働きやすい環境でスムーズな業務が行えるようになります。
適正在庫を導き出す4つの計算方法
どのように適正在庫を見極めていくのか、計算方法は4つありますので、それぞれ解説していきます。
①安全在庫とサイクル在庫から適正在庫を導き出す方法
多くの業界で取り入れられている最も基本的とも言える計算方法は、安全在庫とサイクル在庫から導き出す計算方法です。
安全在庫 = 【安全係数(1.65)】×【出荷・販売量の平均値】× √(発注リードタイム+発注間隔)
サイクル在庫 = 【発注から発注までの日数÷2】の時点で消費した在庫数
適正在庫 = 安全在庫+サイクル在庫
※安全係数は欠品許容率(1.65は欠品許容率5%にあたる数値)
※発注リードタイムは発注から納品までの日数を当てはめます
※発注間隔は次回発注までの日数を当てはめます
安全在庫は欠品しないために最低限維持すべき在庫を指し、サイクル在庫は発注(生産)から次回の発注(生産)までに消費された在庫量の半分を指します。
この方法では経験測も大きく含まれることから難易度は高めで、俗人化しやすく、また季節ごとに需要の変動が大きな商品には向きません。
②需要数から適正在庫を導き出す方法
欠品するリスクを避けられ、シンプルな計算で適正在庫を導き出せるのが、需要数から適正在庫を算出するこの方法です。
企業の在庫管理というよりは、店舗など現場向きの計算方法になります。
適正在庫数 = 一定期間の需要数 + 安全在庫数
※安全在庫数は「①安全在庫とサイクル在庫から適正在庫を導き出す方法」を参照ください。
③在庫回転率と在庫回転日数から適正在庫か判断する方法
トップダウン形式で適正在庫を導く、経営的視点から在庫回転率を算出し、適正在庫を確認する方法です。
この方法では、一定期間にどの程度入出荷があるのかを把握することができます。
①在庫回転率 = 年間もしくは月間の売上原価 ÷ 平均在庫金額
※売上原価 = 期首在庫金額 + 仕入れ在庫金額 – 期末在庫金額
※平均在庫金額 =(期首在庫金額 + 期末在庫金額)÷ 2
②在庫回転日数 = 日数 ÷ 在庫回転率
④交叉比率から適正在庫金額を導き出す方法
効率よく利益を挙げられる商品を中心に商品を取り揃えたい、という場合に好まれる交叉比率(数値が高いほど効率よく利益がでる)から適正在庫金額を把握るするための計算方法です。
企業運営というよりも、小売業で用いられることが多いでしょう。
①交叉比率 = 在庫回転率 × 粗利益率
※粗利益率 = 粗利益 ÷ 売上高
②在庫回転率 = 交叉比率 ÷ 粗利益率
③適正在庫金額 = 売上目標 ÷ 在庫回転率
適正在庫維持を阻害する5つの要因
適正在庫を維持することを阻む要因として、以下の5つが挙げられます。
- 適正在庫の考え方が社内で統一されていない
- 発注方法が適切なものでない
- 需要予測が適切でない
- 製造リードタイムが長い
- 運転資金と適正在庫の関係性が適正でない
適正在庫維持ができない主な原因でもあるのが、『部門ごと、部署ごとに適正在庫に対する考え方が異なる』というケースが多くあります。
企業経営を最適化する視点にたって、適正在庫について画一することは必須です。
また商品によって適切な発注方法があります。例えば季節により需要の激しい商品を、仕入れ価格を抑えるために定期発注してしまう、というのはわかりやすいNGな方法。
安定した価格で仕入れるために定期発注は有効ではありますが、商品によっては適した方法とはいえず、過剰在庫になってしまうリスクが大きくなります。
またその時々で人気がでるようなキャラクター商品などを、定量発注してしまうというのも同じことが言えます。発注にかかるコストや労力を最小限に抑えるための定量発注ですが、商品特性によっては全く意味が無くなってしまうのです。
平常時の需要把握はもちろん、季節、月ごと、トレンドなど様々な要因を絡めた最適な在庫管理を行うことこそ、適正在庫維持に欠かせないものなのです。
適正在庫を維持するためにしたい5つのこと
適正在庫を維持するために、やっておきたい5つのポイントがあります。
- 適正在庫の考え方を社内全体で共有する
- 発注方式は商品毎に適切な方法をとる
- 需要予測ができる在庫管理システムを導入する
- 製造工程の見直し(リードタイム短縮)
- キャッシュコンバージョンサイクルを最適化する
適正在庫維持を阻む要因からもわかるように、社内で適正在庫に対する考え方を統一し、適正在庫をキープする方針を取りまとめることは必要不可欠です。
発注方式は商品ジャンルごとなどで決めてしまうのではなく、商品1つ1つに最適な方法を導き出すことも大切。
また販売機会の損失を避けるためにも、リードタイムを最適化し欠品を防ぐこと、無駄な在庫を抱えてしまわないようにすることは必須です。
適正在庫を見極めるうえで、在庫回転日数の最適化を図ることがキャッシュコンバージョンサイクル(運転資金の資金繰りに必要な期間)の最適化にも繋がります。
こうしたことは簡単にできることではありませんが、効率よく確実に実現するため、需要予測ができる在庫管理システムを導入する、というのも1つの手段です。
適正在庫を決める際の注意点
適正在庫を見極める作業は簡単ではありませんから、終えるとしばらくはそのままで良いか…と安心してしまう気持ちにもさせられます。
ですが、適正在庫を見極めたその後に、重要になる2つのポイントをお伝えさせてください。
- 適正在庫は定期的に最適化すること
- 適正在庫は短いスパンでなく最低1年ほど追跡しいて判断する
近年も急速に健康への関心が高まり、様々なトレンドの変動がありました。今まで良いとされていたものが、他に良いと言われたものに淘汰されていくことも多くあります。季節ものでなくとも1年の間、また数年の間に大きな需要の変動が生まれることもありますから、定期的な適正在庫の見直しをすることも重要なのです。また適正在庫を導き出し、それにそって運用していても過剰在庫になってしまいがちであったり、逆に欠品してしまうことがある、という場合もあるでしょう。
このような場合も適正在庫を適宜見直し、在庫適正化に向けて検討することが大切です。
まとめ
簡単とはいえないものの、企業経営を健全に存続し、利益を最大化、また経営のスマート化のために適正在庫を見極めることが大切だということがおわかり頂けたのではないでしょうか。
計算方法にはご紹介した4つがありますが、御社での算出に最適な方法を選び、今後の企業成長に結びつけて頂ければ幸いです。
商品ごと、またシーズン、月ごと、トレンド状況なども見据えた在庫適正化で、今後の企業運営が上向きになることを期待しています。