災害の大規模化と頻度の高まりが顕著な現代にあって、物流企業の価値や、クライアントやステークホルダーからの評価基準は、単なる物流業務にとどまりません。
有事の際でも取引企業や地域住民に生活物資や商品を届け、寸断されたサプライチェーンを短期間のうちに復旧して経済的なダメージを最小限で食い止めることを、その役割として強く期待されているといえるでしょう。
そこで欠かせないのが、物流BCPの存在です。BCPとは、「事業継続計画」を意味し、業種や企業の規模にかかわらず、危機管理対策の必須ツールとして大変注目されています。
今回は、とくに物流業界で求められる物流BCPについての詳しい内容や役割、さらに現実的に役立つ物流BCP策定の方法について解説します。
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物流BCPとは
「物流BCP」とは、物流業界におけるBCP(Business Continuity Plan)のことで、「事業継続計画」を意味します。
災害やテロなどの緊急事態において、平素に近い物流機能を維持し、寸断されたサプライチェーンを早期に復旧させるための方針を現実に即した形でマニュアル化したものです。
想定外の有事が発生すると、だれしもパニック状態に陥り、冷静に考えて行動することが難しくなります。しかも、最近の自然災害は一時とは限らず、二次三次と間を開けながら追い打ちをかけてくるケースも少なくないため、適切な避難や復旧活動を首尾よく行うことは容易ではありません。企業においても指揮系統がバラバラになったり、考え方の違いから協力体制が取れなかったりして、問題解決の糸口がつかめずに時間ばかりが経過することもあり得ます。
そこで、有事を想定し、手を打つべき優先順位を決め、個人や部署ごとの行動指針、取引先への働きかけ、商品やデータの保護などについてマニュアルを作り、平素から訓練を重ねることで、現実の災害時でも物流業者ならではの役割を果たせるように万全を期すことが求められているのです。
物流BCPの考え方
まず物流BCPを策定するにあたって、大きく「拠点の分散化」と「細かな計画の策定」という2つの視点をもつことが肝要です。以下に詳しく説明しましょう。
拠点の分散化
一つは、そもそも大規模な災害が起こったとしても、まず極力被害者の立場にならずに済むための方法を考えて対処しておくということです。つまり、自分たちが直接甚大な被害に遭ってしまうと、取引先や地域住民に救いの手を差し伸べることなど、到底できなくなるからです。
かといって、自然災害やテロ、大事故などはいつどこで起こるかわかりません。よって、第一にできる適切な施策は、拠点の分散化です。司令塔を一極集中させずに、例えば関東と関西、あるいは、四国、九州、沖縄、というように環境が大きく異なる安全な拠点を複数所持しておきます。そして、地盤が強固で極力高台を選び、データのバックアップやいつでもメインの拠点に代わって司令塔として機能する状態を保持しておくのが、理想です。
ただし、これには莫大な予算がかかるので、可能な企業は限られているのが現実でしょう。よって、グループ会社も巻き込んで何らかの分散体制を構築したり、せめてデータのバックアップ拠点を 設けたりするだけでも、大きな効果があります。
細かな計画の策定
もう一つは、自分たちも災害に巻き込まれることを前提に、物流業者として、取引先や地域への貢献、サプライチェーンの早期復旧を首尾よく行うための指針を策定するという視点です。
これは、具体的に
- 防災訓練プログラム
- 災害直後の行動指針
- 復旧作業の指針
- 備えとして設置する設備や確保すべき備品の確認作業
といった項目が考えられます。
詳しくは、一般社団法人 日本物流団体連合会が公開している「自然災害時における物流業のBCP作成ガイドライン」を参照にして、具体的な項目の確認からでも始めてみるとよいでしょう。
リスクの想定
さらに、物流BCP策定の考え方で大切なのが、「リスクの想定」です。とくに近年は、政府や専門家の想定を越えた災害が頻発しています。それゆえに決して容易ではないのですが、その地域の地理的、人為的、社会的条件に即した被害の及び方を想像しうる範囲で、洗い出すことが先決です。
その想定作業が甘ければ、真に意味のある事業継続計画は、策定し得ないと言わざるを得ません。そもそもの出発点に不足があれば、いくら対策を練ったとしても、絵に描いた餅でおわってしまうリスクは否定できないのです。
加えて重要なのが、通り一遍の対策やプランで満足しないことです。通常のルートが閉鎖された場合の迂回方法、別ルートの開拓、複数の通信手段、燃料、ライフラインなどの確保、自治体や消防との連携など、各項目について、プランB、プランCまで、入念に練り上げる姿勢が求められます。
その際には、特定の人員だけでなく、各部署のさまざまな立場の社員から、意見や疑問などを吸い上げる環境作りも大切です。狭い考え方に固執せず、一人でも多くの面子で知恵を絞ることで、自ずと事業継続対策に対する高い意識が芽生えるきっかけが作れるので、非常に有効なプロセスとなるでしょう。
実用的な物流BCPの策定方法
質の高い物流BCPを策定するには、自社のみではなく、関係のある取引先と連携することが不可欠です。つまり、荷主であれば物流業者と、物流業者ならすべての荷主と密な情報や意見交換を行いながら、ともにBCPを体系化していくのです。いざ災害が起きたとしても、被害の程度がまったく同じということはありません。より被害の少ない側が、率先して動けば、被害が大きい相手を少しでも助けることができます。つまり、複数の関係者が同じ行動指針を共有しておくと、リスクが分散でき、被害を最小限にとどめたり、早期の復旧作業がしやすくなったりするのです。
その際に、大変参考となるのが、国交省が推奨している「荷主と物流業者が連携したBCP策定のためのガイドライン」です。
その要諦は、以下の6つのステップからなります。
ステップ1 人材の育成
ステップ2 行動マニュアル等の作成
ステップ3 行動マニュアル等情報の共有
ステップ4 行動マニュアルに基づく共同した訓練の実施
ステップ5 行動マニュアル等の充実・見直し
ステップ6 事業継続計画(BCP)への発展
肝心なのは、ステップ3までは、各社で独自に行動マニュアル等を作成する点です。それらをステップ4で相互に情報交換した際には、必ずしも同じ内容であるとは限らないでしょう。むしろ 内容に差がある方が、議論が深まり、より事業継続計画への意識が高まると期待できます。
それにより、より精度の高い洗練されたBCPが完成し、互いに納得した内容になれば、いざという時には、しっかりと連携できる可能性が高まるはずです。逆に、考え方が異なり、さまざまな意見交換を繰り返すことになるというのは、それだけ過去の事業継続への考え方に不備があり、有事への備えが曖昧で、決して完璧ではなかったととらえることもできます。
内閣府のBCPに関する実態調査によると、2010年には、22.4 %だった物流業界のBCPの策定率は、政府や業界団体の呼びかけの甲斐もあって2017年には、50.1%にまで上昇しました。しかし、それでも半分にすぎず、業界全体として現実レベルで社会に貢献し、企業価値を高めるためには、さらなるBCP策定の普及が待たれます。
まとめ
有事は、いつどのような形で発生するか分かりません。しかし、それをいたずらに心配するよりは、BCPを策定して備える方が、はるかに賢明といえるでしょう。
物流BCPの策定は、一日でも早いに越したことがありません。まずは、地域の防災マップを開くことからでも始めてみてはいかがでしょうか。