オムニチャネルをわかりやすく解説すると、実店舗・ECサイトどちらもあるようなショップにおいて、消費者がどちらを利用しても変わらない購買行動が行えるようにした販売戦略を指す言葉です。
現代社会では、スマートフォンの利用が当たり前となり、消費者のニーズも多様化しています。その中で販売機会を増やし、ユーザビリティが高く、購買意欲を刺激する安価なビジネスモデルとして注目されています。また消費者の購買行動を最適化し、より多くの販売機会を創出するオムニチャネルの導入には、物流改革が欠かせません。今回は、オムニチャネルへの理解を深め、どのような改革や施策が必要になるのか、事例を交えてご紹介します。
目次
オムニチャネルとは
オムニチャネル(Omnichannel)とは、実店舗やECサイト、アプリ、カタログなど、ユーザーとのあらゆる接点(チャネル)で最適な購買体験を提供し、売上拡大を目指す販売戦略のことを指す言葉です。オムニチャネルの「オムニ」はラテン語で「すべて」を意味し、 「チャネル」は企業が消費者に商品を届ける流通経路という意味を指しています。
例えば今までは、「実店舗では紙のクーポンがあって20%oFFで購入できる商品が、ECサイトではWEB限定クーポンで15%OFFでしか購入できない」といったこともあったでしょう。ですがオムニチャネルを導入することで、「実店舗でECサイトでも、WEB配信したクーポンで15%OFFで購入できる」ようになります。それだけでなく、「ECサイトにしか在庫がなかった商品を、いつもの実店舗で試着してから購入検討できる」という仕組みを導入することも可能です。このように、消費者の購買行動に制限を設けず、購買意欲を最大限に引き出しつつ、利便性の高い購買行動を可能にすることができるのがオムニチャネルということができるでしょう。
また、初めてオムニチャネルを導入したのはアメリカの大手百貨店(2010年)でした。日本に持ち込んだのは小売業としてはセブン&アイ・ホールディングスで、店頭受け取りサービスを充実させましたが、次第に国内のスーパー・コンビニ・ドラッグストアへ広がりを見せました。
オムニチャネルが拡大した背景
インターネットの利用が当たり前のものとなり、ECサイトも充実しWEB限定のサービスなどが充実したこともあり、実店舗での売上減少に悩まされる小売店が多くありました。実物を店舗で確認したうえで、オンラインショップで安く購入するという消費者も増えたことも要因の1つです。こうした課題を解消し、企業運営を正常化しつつ増収する目的もあり、大手企業を中心に実店舗とECの統合化を図ったシステムを構築し、オムニチャネルが広がっていったのです。
オムニチャネル導入によって、顧客満足度を高めるべく、実店舗でネット注文できるようにする、SNSの口コミ情報から気軽に購入でき、受け取りは都合にあわせて実店舗やコンビニが指定できるようになる、と消費者にとっても利便性の高いサービスが広がりました。
マルチチャネルとは?【オムニチャネルとの違い】
マルチチャネルとは、ユーザーに対しさまざまな販売経路を持つことなので、オムニチャネルと同じものであるとも解釈できそうです。大きな違いとなるのは、チャネルによっての壁の有無です。
オムニチャネルは先にお伝えしたように、各チャネル間の壁を意識せずに消費者が利用できるものですが、マルチチャネルでは販売経路を増やすだけなので、それぞれのチャネル間の壁を意識しないでは利用できなません。訪問販売・通信販売・ECサイト・実店舗・カタログ販売・チラシを使った販促なども1つ1つが個別のチャネルとなり得ます。
わかりやすく、以下にオムニチャネルで可能でマルチチャネルで不可となるものをピックアップしました。
- 実店舗でためたポイントが、ECサイトでも使える
- ECサイトで注文した商品を実店舗で試着してから購入できる
- 実店舗でもらったクーポンがECサイトでも使える
- ECサイトでどの店舗に在庫があるかチェックできる
- 欲しい商品を他の店舗からいきつけの店舗に移送してもらえる
このようにユーザビリティが大幅に向上し、それぞれのチャネルの垣根を意識することなく消費行動ができるかどうか、がオムニチャネルとマルチチャネルの大きな違いです。
オムニチャネル導入のメリット・デメリット
オムニチャネル導入を検討する上で気になるメリット・デメリットをまとめました。
オムニチャネル導入のメリット
オムニチャネルを導入するメリットには、以下のようなものがあります。
- ユーザー分析しやすい
- 販売チャンスが増加する
- 顧客とのエンゲージメントが上昇する
オムニチャネルでは、ECサイトと実店舗の顧客情報、在庫、売上などのデータを統合して管理します。そのため、各チャネルを分けることなく、詳細なデータ分析が行えるのは、マーケティングの観点からも大きなメリットです。
また、顧客視点に立つと、「買いたい商品が実店舗では売り切れている。でもECサイトには在庫があるので、後日店舗で試着してもらい、購入を検討したい」といった具合です。つまり、試着しないと購入しにくいアパレル商品でも、ECサイトを利用し、都合に合わせて買い物をすることができるのです。これは販売機会を増やすだけでなく、顧客エンゲージメントの向上にも大きな効果が期待できます。これらのメリットは、既存顧客だけでなく新規顧客の獲得にもつながりやすいため、幅広いターゲット顧客に対して有効な戦略となります。
オムニチャネル導入のデメリット
オムニチャネルを導入する際のデメリットについてもまとめました。
- 物流戦略改革に初期コストがかかる
- チャネル間の連携が緻密で難しい
- すぐに効果を感じられるものではない
オムニチャネルを成功させるためには、実店舗とECサイトのシステムを統合し、統合の過程でデータ管理を含めた業務改善を行うことが必要です。また物流面での改善も求められるケースも多く、特に店舗間での商品の頻回な移送が想定される場合や、顧客の手元にスピーディーに届けるための仕組みづくりも重要なポイントです。そのため、初期コストがかかることがオムニチャネル導入のデメリットと捉えられることもあります。
しかし、長い目で見れば、オムニチャネルは販売機会や収益を大きく伸ばすことができるため、この点はデメリットとは言い切れないでしょう。また、オムニチャネルの成果が出るまでには時間がかかるということも忘れてはいけません。オムニチャネルが消費者層に浸透して初めて成果が実感できるのですから、オムニチャネル導入の成果が出るまでに時間がかかるのは仕方がないことです。
オムニチャネル導入で成功するには物流改革も必須
オムニチャネルを導入し、成功するためには物流面での改革も必要である、とお伝えしました。
販売チャネルが増えれば増えるほど、検討すべきこと、対応すべきポイントが増え、在庫管理も複雑になっていきます。ですがデータ管理を一元化することは、オムニチャネル成功には欠かせない要因です。
例えば、ECサイト上で「在庫あり」となっていたのに実際は品切れという事態を経験したことがあるのではないでしょうか。これはユーザーの購買意欲を大きく損ない、ビジネスに不可欠な顧客の信頼も損ないかねません。このような事態を回避できるのも、オムニチャネル導入で得られるメリットの1つであり、物流面での改革を徹底することは大変ですが、重要な作業になるのです。
また近年ではECサイトで購入した際の配送も、短期間で可能となっていることが当たり前になりつつあります。こうしたことも、オムニチャネルを導入し、物流面の改革を徹底することで可能になるサービスですから、販売機会を増加させるためにもオムニチャネル導入は大きな成果が期待できるのです。
とはいえ、物流改革を行う上で、システムに登録された在庫と実際の在庫をリアルタイムに連動させることは容易ではないため、自社だけでなく外部に委託することで解決しているケースもあります。
リアルタイムな連携を実現するためには、以下のようなことが有効です。
- WMS・ECモールカートシステム・在庫管理システムを連携させる
- 倉庫状況・生産状況・店舗在庫数・ECサイトのリアルタイムな在庫管理システムの構築
- 配送リードタイムの短縮
それぞれ詳しくチェックしていきましょう。
①WMS・ECモールカートシステム・在庫管理システムを連携させる
データを一元管理する上で、在庫管理システム・ECモールカートシステム・WMSをそれぞれ独立したシステムとして利用するのは避けるべきです。システムの連携には様々なデータの関連性や、それぞれの数字の意味なども把握しつつ連携する作業が必要になります。
自社内で適任者がいない場合、こうした業務の実績がある業者に委託するとスムーズでしょう。
②倉庫状況・生産状況・店舗在庫数・ECサイトのリアルタイムな在庫管理システムの構築
システムの統合だけでなく、ECサイト・在庫・実店舗・製造工場の実情をリアルタイムに管理できる在庫管理も必要です。単純な在庫管理でなく、「実店舗で取り置きしている在庫である」といったようなデータもあわせて管理できるようにすることで、緻密な在庫管理体制が整います。
このような在庫管理をリアルタイムに可能にするためにも、物流フローを確立して、管理体制を整え、システム改善することが重要なのです。
③配送リードタイムの短縮
物流改善の観点からは、「納品リードタイムの短縮」も大きな課題です。
オムニチャネルを導入しても、配送に時間がかかってしまうのでは競合他社に見込み顧客が奪われてしまう可能性もあります。そのためには、配送の迅速化だけでなく、お客様の欲しい在庫がない店舗に他店舗の在庫を素早く届けるなど、物流フローの見直しが必要です。
複数の拠点間の移送を効率的に実現するためにも、物流拠点の整備が欠かせないのです。三井住友トラスト基礎研究所の調査結果によると、物流拠点は交通の便が良く、消費地や生産拠点へのアクセスに優れた場所にあることが重要であるとしています。この点を踏まえて物流ルートやシステムを見直すことも、オムニチャネルを成功させるために欠かせないポイントです。
オムニチャネルの事例
事例1. 株式会社ZOZO【ZOZOMO】
株式会社ZOZOが運営するZOZOMOは、ZOZOTOWNとブランドの実店舗を繋ぐOMOプラットフォームとして活用されています。
事例2. 無印良品【MUJI passport】
MUJI passportとは「実店舗へ来店するとマイルが貯まる」「エコバックを持参するとマイルが溜まる」などECショップが全盛している今の時代に、実店舗での購買意欲を高めるサービス内容です。実店舗での売り上げ促進だけでなく、これで貯めたマイルはネットショッピングでも使える仕組みとしています。
まとめ
オムニチャネルとはどういうものか、どのようなメリット・デメリットがあるのかも含めてご紹介してきました。またオムニチャネルを導入し成功するためには、物流面での改革も欠かせず、物流改革なしでは成功はあり得ないということもお分かりいただけたのではないでしょうか。
こちらでお伝えしてきた情報を、成功事例も踏まえつつ、御社に最適な形でこれからの時代を生き抜くオムニチャネルの導入に役立てていただけましたら幸いです。