棚卸しを行った結果まったく何も問題がないというのは、現実的に難しいかもしれません。製品が多かったり、企業規模が大きかったり、取引先が多数にのぼるほど、帳簿上の在庫数と実在庫の数が一致しない「棚卸差異」が、起こりやすいといえます。人手不足が原因となることも大いにあるかもしれません。
棚卸差異が経営上良くないとわかっていても、同じミスを繰り返したり、どのように減らすべきかわからなかったりして悩みの種となっている経営者や担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、企業収益や納税額にも密接に関わる棚卸差異率や、棚卸差異のデメリット、棚卸差異が多い企業の特徴、さらにそれを減らす対策について詳しく解説します。
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目次
棚卸差異率とは
棚卸差異率とは、「帳簿上の在庫数」に対する、「帳簿上の在庫数と棚卸を行って確認した実在庫数の差(棚卸差異)」の割合を意味します。具体的には以下の計算式で算出できます。
- 棚卸差異率=(帳簿上の在庫数−実在庫数)÷帳簿上の在庫数
例を挙げて説明しましょう。
ある化粧品会社Aの「リップクリーム」と「化粧水」の棚卸差異率について考えます。「リップクリーム」の帳簿上の在庫数は100個、実在庫数は95個だとします。「化粧水」の帳簿上の在庫数は100個、実在庫数は120個だとします。
リップクリームの棚卸差異率=(100−95)÷100=0.05 つまり「5%」です。
化粧水の棚卸差異率=(100−120)÷100=−0.2 つまり「20%」となります。
一般的に、棚卸差異率の許容範囲は、「5%」とされています。ということは、上記の例に当てはめると、A社のリップクリームの棚卸差異率は、ギリギリ許容範囲内で、化粧水については、かなりその範囲を逸脱していることがわかります。この事実を経営者目線で捉えると、リップクリームの5%が許されて良いわけではありませんが、化粧水の20%はあまりに酷すぎるので、その原因究明と改善策が必要だと判断できます。加えて、リップクリームの棚卸差異率は、「+」、化粧水のそれは「−」となっている点にも注目する必要があります。前者は、帳簿上の在庫数が実在庫より多くなっており、帳簿上あるはずの在庫が、実際は存在しないことを示しています。一方、後者は、実在庫が帳簿上の在庫数より多いので、帳簿上にないはずの在庫が存在していることを意味します。
いずれにしろ、もっとも理想なのは、この棚卸差異率が「0%」であるということです。
在庫差益と在庫差損
リップクリームの棚卸差異率が、「+」、化粧水のそれが「−」になっている件についてもう少し深く掘り下げましょう。
- リップクリームのように、実在庫数が帳簿の数より多い「+」の状態を「棚卸差損」
- 化粧水のような実在庫数が帳簿の数より少ない「−」の状態を「棚卸差益」
といいます。
棚卸差損は、会計上は、「棚卸減耗費」として計上し、一方の棚卸差益については「繰越商品」として仕訳します。ちなみに棚卸しを実施すると、帳簿の在庫数と実在庫数が一致するものの、その一部の製品について液漏れや破損といった劣化によって、品質上売ることができなくなっている場合があり得ます。この際は、「商品評価損」として計上する必要があります。
棚卸差異のデメリット
棚卸差異があるとどのようなデメリットがあるのでしょうか。
具体的には、以下の4つです。
- 機会損失が生じる
- 売上総利益(粗利)が減少する
- 顧客からの信用が低下する
- 業務効率が低下する
詳しく解説しましょう。
機会損失が生じる
棚卸差異率が高ければ、在庫管理のデータ上は在庫があるにも関わらず、実際にはその在庫が存在しないという事態が起こり得ます。
出荷までのリードタイムを長く確保できる業態ならまだしも、スーパーやコンビニ、ディスカウントショップのような小売店で、毎日のように入荷が必要な商品の場合は、大変です。確実に売れるとわかっている商品が在庫不足で店頭に陳列できないとすると、多大な機会損失を招く恐れがあるでしょう。
売上総利益(粗利)が減少する
当期利益ともいえる売上総利益(粗利)は、次の計算式で求めることができます。
売上総利益 = 売上額 − 売上原価
さらに売上原価は実際に売れた商品の仕入れ額の総合計を示し、次のように算出できます。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 − 期末商品棚卸高
しかし、棚卸差異があるということは、この売上原価に過不足が発生し、結果として売上総利益にも狂いが生じます。売上総利益が実際よりも多ければ、一見良いようにも思えますが、余分な税金を支払うことになります。といって実際よりも少なければ、社の実績が目減りするため、社会的な評価が低下する可能性があるでしょう。棚卸差異があると現状が正確に掴めなくなるという意味で、非常にデメリットが大きいのです。
顧客からの信用が低下する
棚卸差異があることで在庫不足が発生すると、顧客需要に対して満足に応えることが難しくなります。一度や二度であればまだしも、棚卸差異の原因が掴みきれなかったり、再発防止策が甘かったりして、同じミスを繰り返すとなると、顧客やステークホルダーからは大きく信用を失うことになるでしょう。
業務効率が低下する
著しい棚卸差異が起きると、その原因究明のために場合によっては担当者や社員総出で、倉庫内の在庫を調べ直す必要が出てきます。一部の商品が見当たらない場合、その原因が、紛失なのか、保管場所の移動なのか、盗難によるのか、そもそも仕入れていない架空の商品なのか、時には取引先を巻き込む事態に発展しかねません。これらの作業は、残業や休日出勤、あるいは本業と並行しながらの仕事となるため、大変な手間と時間を割くことになり、業務効率が大幅に低下する恐れがあります。
棚卸差異が多い企業の特徴
続いて、棚卸差異が多い企業に良くある特徴について紹介しましょう。
入出庫時の確認ミスが多い
商品を仕入れてそのまま在庫棚に格納してしまって、正確な検品を行わないために、そもそも品目や数量の誤りに気づけないという場合があります。他にもシステムへの入力ミス、出荷品目や数量の勘違い、カウントミスなどにより、帳簿と合わなくなることもあります。
格納マニュアルが徹底されていないために、担当者によって在庫の保管場所に違いが生じることもあります。非常に基礎的なミスですが、品目や数量が多数になったり、在庫スペースが足りなくなったりすると、現場サイドで都合の良い方法に変更してしまう場合があるのです。その情報を共有できなければ、棚卸差異の原因にもなり得るでしょう。
棚卸のルール化不足
棚卸作業のルール化が曖昧だと、担当者によってカウントミスが起きたり、劣化した商品の判断基準が異なったりすることもあります。棚卸は定期的に行うものですから、行き当たりばったりではなく、事前に手順を共有するなどして、計画的に進める必要があるでしょう。準備が足りないことで、上手く運ばないケースが少なくありません。
発注ミスや仕入れ先の出荷ミスが多い
帳簿とは異なる量の発注により在庫不足になったり、在庫過多になることがあります。仕入れ先によっては、注文と異なる品目や数量を誤出荷するケースもあって、これらが棚卸差異を引き起こすことは珍しくありません。
あきらかな人手不足
棚卸は、正直なところとても面倒で疲弊しやすい業務です。好きで仕方ないという人は少ないでしょう。にも関わらず人手不足が原因で、一人にかかる負担が重すぎるケースがよく見受けられます。すると疲労とストレスにより集中力が欠如して、ミスにつながることがあるのです。
棚卸差異を減らす対策
最後に棚卸差異を減らす具体的な対策について紹介しましょう。
検品を徹底する
入庫の際に荷物の中身と数量を正確に検品できれば、それが棚卸差異の水際対策の一つになります。入庫の段階でボタンのかけ違いがあると、修正作業が非常に面倒になるので、検品は手間ですが、確実な防止策になるでしょう。
入力業務を後回しにしない
納品伝票や出荷伝票、あるいは返品伝票などの入力作業や確認を後回しにすると、棚卸差異が生じる原因となります。自動化できる場合は良いですが、入力が必要な場合は、その日のうちに速やかに済ませて後回しにしないことが大切です。
棚卸差異報告書を作成する
棚卸差異報告書を作成し、在庫差異が生じた倉庫名や棚番号、品目、日付、担当者などを明記するようにルール化すると、原因究明に役立ちます。規則性やパターンを社内で共有することで、再発防止にもつながるでしょう。
在庫管理(WMS)システムを導入する
ソフトをダウンロードしたり、クラウドを使ったりして利用できる在庫管理システム(WMS)を導入するのもおすすめです。ハンディーターミナルやバーコードと併用すれば、在庫の流れを一元管理できるので、棚卸しが非常に楽に、正確に行えます。省人化、コストカットも実現するでしょう。
棚卸のルール化を徹底する
「棚卸は2人ペアで行う」「指差し、声出しで確認する」「劣化商品の判断基準を画像によって明確化・平準化する」といった形で、実地棚卸の手順を高度にルール化することは、非常に有効でしょう。現場作業はベテラン社員がいなければ回らないという属人化が起きやすいため、これを回避する意味でも有効です。
アウトソーシングする
人手不足や業務拡大により、とても棚卸にまで手が回らないという場合は、専門業者にアウトソーシングするのも一つです。プロの目でチェックしてもらうことで、業務体質の改善がはかれる上、本来の業務に集中できるため、費用対効果がアップすると期待できるでしょう。
まとめ
棚卸差異率を0%に近づけるのは、容易ではありませんが、決して不可能でもありません。
記事内でご紹介した方法を、自社の現状に当てはめながら最適化すれば、目に見えて成果が上がってくると期待できるでしょう。
的確な利益確定と、クライアントからの強い信頼を手にするためにも、ぜひ前向きに実践してみてください。
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