適切な在庫管理は、経営に影響を与える重要課題の一つです。在庫を最適な水準に保つためには、需要と供給を一致させる需給管理が欠かせません。そんな在庫管理で重要な作業の1つが発注作業です。
商品が足りなくなったら仕入先に発注すればよいので簡単そうに見えますが、在庫管理をおろそかにすると、多くの機会損失や無駄な出費を招くことになりかねません。在庫数や入荷・出荷時期などのデータを共有し、いつ、どれだけ商品が足りないか、発注のタイミングを判断することで、合理的な発注を実現することができます。
発注方法にはいくつかの種類があります。ここでは、最も一般的な発注方法である「定期発注方式」と「定量発注方式」を取り上げます。発注方法は、取り扱う商品の性質や単価によって向き不向きがあるので、それぞれの特徴を理解し、どの方法を導入するかを決める必要があります。各方式のメリット・デメリットや、どのような商品に適しているかなどを解説していきます。
倉庫・物流業務を委託したい方へ
目次
発注方式の種類
発注方式には、以下のようなものがあります。
定期発注方式 | 「毎月15日」など定期的に発注する方法。発注量は毎回決める。 |
定量発注方式 | 在庫が一定の量(発注点)まで減少したら、決まった量を発注する方法 |
不定期不定量発注方式 | 在庫が一定の量(発注点)まで減少したら、都度発注量を決めて発注する方法 |
簡易発注方式 |
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分納発注方式 | 計画に合わせて分けて納品する方式 |
同期化発注方式 | 毎日一定数を納品する方式 |
ここでは、主に使用される定期発注方式と定量発注方式についてみていきます。
定期発注方式とは
定期発注方式とは、材料や製品などを「毎月15日」とか「第3月曜日」といった具合に定期的に発注する方法です。数量は決まっておらず、その時々に必要な分だけ注文します。
定期発注方式が向いているのは、以下の特徴をもつ商品です。
- 単価が高い商品
- 需要の変化が比較的大きく、または頻繁で、予測がしにくい商品
- 消費期限がある商品
- 劣化が目立つ商品
家電量販店でいえば冷蔵庫や洗濯機、セレクトショップの高級バッグ(ともに自社で買い取ると仮定した場合)、小売店の生鮮食品などがわかりやすい例です。冷蔵庫や洗濯機は、単価が高いため仕入れすぎて売れなければ保管スペースの確保もコスト負担も大変です。かといって入学、就職シーズンには、思いの外数多く売れることもあるので、時期によっては多めの在庫が欲しいところでしょう。生の魚や肉などは、毎日仕入れる必要がありますが、消費期限があり長期保管できないので、売れ残りによるロスは避けたいところです。よって定期的かつ数量を変えながら注文できる定期発注方式がうってつけというわけです。
ちなみに、定期発注方式を活用する際の発注量の求め方は以下の通りです。
発注量 =(発注間隔 + 調達期間) × 1日の在庫使用予定量 + 安全在庫 - 現在の在庫量 - 現在の発注残
「安全在庫」とは、急に大量の販売が必要となった場合の保険的役割を果たす予備の在庫のことです。
安全在庫 = 安全係数 × 需要数の標準偏差 ×√(発注間隔+調達期間)で求めることができます。
「発注残」とは、現在注文している商品の中で、まだ納品されていないものの数量です。もし100個注文した商品が、80個しか届いていなければ、発注残は20個になります。
定期発注方式のメリット・デメリット
定期発注方式のメリット、デメリットを整理しておきましょう。
メリット
- 発注スケジュールが立てやすい
- 発注忘れを回避できる
- 発注量を増減できるので、需要変動に困らない
定期的な発注により注文作業をルーティン化できるのは、発注忘れを回避できるので、担当者としては非常に安心です。経営者目線でみても、需要に合わせて数量を調整できるのは、コスト負担が少なくて済むので、リスクを減らすことができるという利点があるでしょう。
デメリット
- 適切な発注量の見極めに手間がかかる
- 在庫を正しく把握しておかなければならない
- 属人化リスクがある
各商品や材料について、売れ行きや客の流れ、世の中のトレンドや市況を総合して適切な発注量を決めるのは、決して容易ではありません。在庫も正しく把握しておかなければ、多重発注リスクもあるでしょう。これらを総合すると、発注者は店長や一部のベテラン社員にしか勤まらないため、属人化して、その人が何らかの理由で不在になると業務が滞る可能性もあるので注意が必要です。
定量発注方式とは
「定量発注方式」とは、在庫が一定の量まで減少したら決まった量を発注する方法です。
定量発注方式が向いているのは、
- 単価が低い商品
- 需要が安定していて入手もしやすい商品
- 一度にまとまった量の補充が可能な商品
- 劣化しにくい商品
などです。わかりやすい例としては、砂糖や塩、キッチン用品や文房具などがあげられます。砂糖や塩は、季節に関係なく常に需要がありますし、価格も安くて腐りません。一定の量まで在庫が減ったときに機械的に同量の発注をかけても、在庫はほぼ確実に減らせると想像できます。少々在庫が増えたとしても、実質的な損失やダメージはほとんどないでしょう。
発注を行うと決まっている在庫量を発注点といいますが、その求め方は、以下の通りです。
発注点 =(1日の在庫消費量 × 調達期間)+ 安全在庫
調達するまでに、売れたり、使用したりすると考えられる商品や材料を、安全在庫とともに確保しておく必要があるということです。
定量発注方式のメリット・デメリット
定量発注方式のメリット・デメリットについて整理しておきましょう。
メリット
- 発注量を毎回決める手間がかからない
- 属人化を避けることができる
定期発注方式と違って、需要量に関係なく決まった数を注文すればよいので、とくに店長やベテラン社員でなくとも容易に発注できるでしょう。極端な話、入社したての新人でも可能なため、担当者がいなければ業務が停止するといった深刻な事態を招かなくて済むのです。
デメリット
- 需要の急な増加には対応が困難
いつも決まった量しか注文しないため、仕入れ先もある程度割り当てを固めており、余剰在庫がないケースがあります。そのため、入手できるまで顧客を待たせたり、製造を中断したりせざるをえないリスクがあるのです。
不定量不定期発注方式もある
ちなみに、定期発注方式や定量発注方式以外に、「不定量不定期発注方式」もあります。必要なときに必要な分だけ注文するという方法です。注文を受ける側にとっては、対応するのが大変かもしれませんが、とくに需要が読めなかったり、需要の増減が極端に激しい商品などを扱ったりする発注者にとっては、非常に都合がよい発注方式といえるでしょう。売れそうな分だけ、予約が入った分だけ、その都度仕入れるということが、可能だからです。
タイミングも数量も毎回異なるので手間はかかりますが、リスク管理の上では非常に有利に働くと考えられます。
まとめ
世の経済状態や市況は、まるで生き物のように目くるめく変化し続けます。それにともなって在庫管理の仕方も調整しなければ、思わぬ損失を招くおそれがあるでしょう。もちろん上手くいけば、大きな利益を獲得することも可能です。
製品や材料の性質、客の流れやビジネススタイルに合った発注方式の選択が、業績を大きく占うといっても過言ではありません。ぜひ、需要の変動に負けない適切な発注方式の確立を急ぎましょう。