私たちの日々の生活と切っても切り離せない関係にある「食品流通」。命を守り健康を維持するために、片時たりとも停滞することは許されません。
全国に目をやると、一見生活に必要な食品は問題なく行き渡っているように思えるかもしれません。しかしその裏には、食品流通関係者の大変な苦労や企業努力があります。しかも、非常に危ういリスクや深刻な課題が存在しているのも、事実です。
そこで今回は、食品流通の現状とそこに潜む課題とその解決方法についてまとめました。
物流業界全体の課題については、下記記事をご覧ください。
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目次
食品流通の現状
「食品流通」とは、すべての食品が、生産者から運送会社や倉庫会社、小売業者などを介して消費者に届くまでの一連の流れを意味します。その食品流通の現状や課題を、主軸となる4つのポイントに分けて解説しましょう。
1.販売チャネルの増加
かつては、食品流通といえば、生産者からトラックなどの輸送手段を使って卸業者に配送され、その後小売店や飲食店を経由して消費者に届く、というのが一般的でした。
ところが、卸業者を通さずに、生産農家や漁師、酪農業者などと直接契約をして食品を仕入れる小売店や飲食店が増えたり、インターネットの普及により個人が直接生産者と取引することが、珍しくなくなりました。なかには、農業法人を立ち上げて生産、流通、販売までを一貫して行う例もあります。販売チャネルの多様化とともに、食品流通の現場では、商品の小口化や複雑化、迅速な配送サービス合戦など、かつてなかったさまざまな変容が、生じています。
2.ドライバーの拘束時間の長期化(2024年問題)
食品に限らず、すべての物流において、ドライバーは配送先である程度の拘束を強いられます。積み下ろしや待機などがその理由ですが、実は食品関連がもっともドライバーの拘束時間が長いのです。
ドライバーの長時間労働は、人手不足や高齢化などとともに、しばしば深刻な物流課題としてとりざたされます。国もこの件を非常に重く受け止めており、2024年4月からは、ドライバーの残業時間に上限規制が適用される予定です。すでに労働時間は「1日8時間、週40時間」、残業する場合は「月45時間かつ年間360時間以内」と法制化されています。一部の自動車関連事業は例外が認められてきましたが、上記の日付をもってその措置は撤廃されます。これによりドライバー不足や運賃の高騰化、物流業務の停滞などが懸念されており、これを「2024年問題」と呼んでいます。食品業界も例外ではなく、その影響が非常に心配な状況です。
3.食品ロスの深刻化
消費されない食品を廃棄する「食品ロス」が、世界的な問題になっています。日本も世界ランク14位の食品ロス大国ですが、需給のミスマッチがその主たる原因です。つまり、食べられることがない食品を生産・販売しているということです。飽食で満ち足りている人々が多くいる裏で、一部の人たちの飢餓や貧困が深刻化しており、資源の無駄をなくす意味でも、食品流通に課せられている責任は、非常に重いといえるでしょう。
4.品質管理体制の不備
食品を取り扱う以上、安全は何よりの最優先事項です。腐食や異物混入、破損などがあれば、責任の所在を明確にし、再発防止に努めるのが、食品流通業者の使命です。ところが実際は、どのプロセスでトラブルが生じたのか特定できないことが多く、トレーサビリティ(食品の移動を追跡・把握すること)の必要性が、強く叫ばれています。
食品流通における課題の解決策
上記の様な課題をいかにして軟化させたり、解決したりできるかが、現在、食品流通業界にとても強く求められています。そのヒントとなる取り組みや考え方について解説していきましょう。
効率化の促進
食品流通の課題は、多くの場合「効率化」を促進することで好転していくと考えられます。効率化といっても、さまざまな手法や切り口があるので、とくに重要なテーマを4つに分けて見ていきましょう。
その1 高効率な配車体制の強化
少子化やドライバーを希望する若者の減少傾向を鑑みると、現状からドライバー数を大幅に増やすことには無理があります。そこで有効な解決策が、トラックを効率よく配車できる体制を強化することです。
例えばTMS(輸配送管理システム)を導入すれば、倉庫や工場への到着と同時に積荷を開始、即出発、最短の配送ルートの検索と指示、GPSによるドライバーの位置確認、オペレーターとのオンライン通話などが、可能となります。ドライバーが書くはずの日報も作成します。初期費用が必要ですが、配送時間の短縮化やドライバーの労働時間削減とストレス軽減、燃料のコストカットや積載効率アップによる収益性の向上など、補って余りあるメリットがあるでしょう。
その2 手荷役の削減
食品流通の本質的な課題として、「手荷役が多い」「受注から納品までのリードタイムが極端に短い」「多品種小ロットで多頻度輸送が多い」という3点があげられます。
つまり、「手作業での積み下ろしが多く、消費期限の縛りによって納品速度を速める必要があり、多種多様な製品を小まめに配送しなければならない」ということです。2点目と3点目については、上記のTMSなどITシステムの導入で解決が望めます。
最初の「手荷役が多い」については、フォークリフトや自動搬送車などマテハン機器を充実させると同時に、荷物を単位数量で載せられるパレットを効率よく活用することで、省人化、作業時間の短縮化が可能なため、解決に近づくことができるでしょう。
例えば、10tトラック1台につき、加工食品の積み込みと荷降ろしに各2時間かかるという試算があります。もし1時間かけて配送先まで行くとすれば、2時間で積み込み、1時間で到着、2時間で荷降ろしをして帰ってくるので、それだけで往復6時間を要することになります。これでほぼ一日がつぶれるでしょう。
しかし、パレットを活用すると積み込みと荷降ろしにわずか30分しかかかりません。すると同じ工程が3時間で済むため、上記にの6時間の間に、同じ作業が2回行えることになります。
その3 高効率な倉庫システムの強化
受注や出荷のタイミングに合わせて、加工食品や冷凍食品をいかに効率よく出荷場にセッティングできるかも、リードタイムを大きく左右します。そこでWMS(倉庫管理システム)を使うと、入出庫管理、在庫管理、棚卸管理、ラベル発行や帳票などを自動化することで、作業効率が格段にアップします。
電話やファックス、手書き処理など、旧態依然としたマンパワー頼りのやり方からなかなか抜け出せないのも、食品流通現場に深く根差す慣習です。これをIT化によって克服できれば、長時間労働と人手不足の問題が、大幅に解消されるに違いありません。
その4 受発注予測力の強化
需給のミスマッチによる食品ロスを軽減させるには、自動発注システムの導入が有効です。従来は、店長など限られた人物が日に数時間かけて発注作業をするのが、珍しくありませんでした。しかし、これでは作業負担や個人の勘に頼る面が大きく、ミスや属人化から抜け出せませんでした。
そこで、品目ごとの売上状況をすべてデータ管理し、AIで日付ごとの売上を予測、それに基づいて発注できる自動発注システムの導入が、有効です。これにより発注業務は数十秒〜数分で済み、食品ロスが半減する例や収益が数十%アップする例もあります。
トレーサビリティ精度の向上
効率化につづいては、品質管理の向上による食の安全強化について、です。
これには、先述した「トレーサビリティ」の普及と精度の向上が不可欠です。
生産から輸送、販売までを一貫して行う大企業グループでは、統一したシステムの中で全工程を追跡、把握することが、可能です。しかし、多くの食品流通現場では、複数の取り引き先が各工程で入り乱れて、各所で関係がぶつ切りになっているケースが多く、情報共有が非常に困難な状態にあります。これでは、トラブルの際の原因究明が難しく、社会的信用の失墜につながりかねません。
そこで、期待されているのが、ブロックチェーンによるトレーサビリティの実現です。ブロックチェーンは、中央集権的なサーバーや管理者が存在せず、すべての端末がサーバーをもち、それぞれが分散して1対1で繋がります(P2P方式)。全取引情報がブロックに記録され、すべてのユーザーの承認がなければ書き換えも修正もできないため、高度な堅牢性と安全性、さらに情報の正確性や高い信頼性が、保証されるのです。
海外では、すでにブランド品や医薬品管理などに、業界やグループをあげてブロックチェーンを導入し、盗品や異物混入などの悪質な犯罪を排除することに成功している例もあります。国内の食品流通の現場でも、この体制を整備できれば、非常に精度の高い品質管理が実現するに違いありません。
まとめ
食品流通を取り巻く環境は厳しく、決して楽観視できるものではありません。ただ、日本は世界の中でも食の美味しさと安全性では、圧倒的な評価を得ています。この恵まれた特長と強みを維持するためにも、記事内で紹介したような課題解決策の確実な推進が、強く求められます。